4月1日 野球
はじめてブログの担当をさせていただく「じゅんぺー」です。今年でアメリカに来て10年目、元々は東海岸でオーケストラ音楽の作曲を勉強してきました。2年前にロサンゼルスに来てから、映像音楽の作曲やサウンドの編集・ミキシングを専門的に学んできました。UTBではこれから約3ヶ月、インターンとして主に編集の勉強をさせていただく予定です。
まだ基本的なことを教わっている段階ですが、毎日が発見の連続です。
昨日は野球の試合の「ゲーム落とし」と呼ばれる作業を教わりました。1日前のドジャース戦の中継を録画したものから、スコアブックを参照しながら「見所」を抜き出し、1本のテープにダビングするという編集の下準備なのですが、これが私にとってはあまりにも難易度が高く四苦八苦しています。
なぜなら、これまでの30年近い人生の中で、野球の試合をちゃんと見たことが一度もなく、ルールもろくに理解していないのです。私にとって「スコア」と言われれば即オーケストラの総譜のことですから、ダイヤモンドが縦にも横にもたくさん並ぶ奇妙なシートを渡されたときは途方にくれました。
先輩の方の作業を見学すればするほど、どんどん混乱していきます。
「さっきここの部分を見ていたのだから、次はそこじゃないんですか?」
「……ちょっと、こんなところで詰まっていたんじゃ困ります。あのですね、基本的な仕組みの確認になりますけど、ジャイアンツが攻撃したあとは、ドジャースが攻撃するんです」
「交代ってことですか?」
「……そ、そうですね」
「それは毎回? それとも今回だけ?」
「……あー、毎回と考えていただいて結構です」
先に片方の攻撃を全部終わらせてしまってから、次にもう片方の攻撃をまとめてやった方が無駄がない、と思ってしまった私の非常識加減といったら。
「これは何でここで止まっているんですか?」
「……3回アウトでおしまいですから」
ふーむ。
その他にも「スライダー?」「4ボール?」「げっつー?」……分からないコンセプトの連続です。斉藤選手のピッチングに対する「あれはいい球だなぁ」というコメントを聞いて、「うぉ、日本人選手は違う種類のボールをわざわざ日本から取り寄せて持ち込んでいるのか?!」と一瞬でも考えてしまった自分が恥ずかしい限り。
「1塁にいる人は必ず走らないといけないんですか?」
「……そうしないと、次の人とぶつかってしまいますから」
「この回は1番、2番ときて、いきなり8番に飛んでいますね」
「それは、8番から始まって9番にいった後、1番に戻っているんです」
このような会話がスポーツの映像を編集している現場で聞かれたのは、きっと史上初でしょう。
野球の知識が全くないので、スコアブックに蛍光ペンでハイライトをつけてあるのを見ても、何を意図していたのかがよく分かりません。試合と関係ないところで、審判と喧嘩して退場させられるコーチを見てちょっと愉快な気持ちになったり、サヨナラのランナーがチームメートからバシバシとしばかれているのを見て、「この人は頑張ったのになんでいじめられているのだろう」と気の毒に思ったり。
でも、「実際のプレーだけでなく、球場全体の雰囲気が分かるショットやお客さんの表情、選手や監督の顔のアップなどもちゃんとダビングしておいた方がいいです」というアドバイスは、野球を理解していない私にもよく分かりました。
たった5分の枠の中で1週間のスポーツを全部紹介するためには、ものすごい量の材料を切り取って捨ててしまわなければいけません。その厳しい条件にあって、少しでも視聴されている皆さんに試合の空気そのものを感じてもらうために、球場でのドラマを体験してもらうために、何を残して何を捨てるかで悩む創造の過程は、私が10年取り組んできた作曲と同じだからです。
有名な作曲の先生であったNadia Boulangerは、レッスンのたびに「Write down lots of notes...but keep only those that really matter.」と語ったそうです。これは私が作曲するときに常に意識していることです。
まずは感じるままに、制限なく音符を書き綴っていきます。しかし、その後は編集者の目で自分の音楽を見つめ直し、不必要な音符、削れる音符はすべて削除し、これ以上減らすことのできない核の部分だけを残すのです。作曲において、実はこれほど難しいことはありません。しかし、最小限の音符で最大の表現を得られたと実感できたときの喜びは、また言葉で表すことができないものです。
テレビでは、シビアなほどに「ここは1分で」「ここは40秒で」という制限の中で表現しなければいけません。これもあれも全部見せたいけれども、もちろん全部詰め込むことはできません。余分なものをすべて削ぎ落とした核の部分から、そこから漏れた世界をも視聴者にイメージしてもらえるようにするには何を残し何を切ればよいのか。これからの3ヶ月で、そのようなセンスを少しでも磨けたらいいなと願っています。
音楽でも、映像でも、そして文章でも、「削り取れるだけ削り取る」ことが私の挑戦です。
はじめのブログは自身のモットーに反してかなり長くなってしまいました。でも、この長い文章のおかげで、次回ブログ当番が回ってきたときに「もう面倒だな、書くことないや」と1〜2文だけの(手抜き)ブログを書いてしまっても、「あぁ、じゅんぺーは目標通り頑張ってるんだな」ときっと優しい目で見てもらえるでしょ?
そういうわけで、次回はUTBインターンブログ史上、最も短いブログを予定しています。字数はたぶん俳句程度? それでは。

